最高裁判所第一小法廷 昭和40年(あ)1407号 判決 1966年2月24日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
弁護人糸賀悌治の上告趣意第一点は、違憲をいうが、その実質はすべて単なる法令違反の主張に帰し、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
しかし職権により調査するに、記録によれば、原裁判所は、昭和四〇年四月一四日の第一回公判期日において、弁論を終結し、次回公判期日(判決宣告期日)を同月二八日と指定告知したが、同月二三日弁論の再開を申請する書面が、また同月二七日第二回公判期日の延期方を申請する書面が、いずれも弁護人側から提出されたので、同月二八日の第二回公判期日には、次回公判期日(判決宣告期日)を同年五月一七日と指定しただけで閉廷し、同年五月一七日の第三回公判期日にいたり、さきに終結した弁論を再開して、弁護人申請にかかる証人および書証を取り調べたのち、弁論を終結し、直ちに判決を宣告したことが認められる。一方、原判決の判決書をみると、昭和四〇年四月二八日の日付が記載されており、この日付は判決書作成の年月日を記載したものと認められる(当裁判所昭和二三年(れ)第八九八号同二四年五月一八日大法廷判決、刑集三巻六号七九三頁参照)から、同判決書は前記弁論再開前においてすでに作成されていたものというべきである。してみると結局原裁判所は、前記弁論再開後の口頭弁論に基づかないで判決をしたものと認めるほかなく、右は刑訴法四三条一項に反するものといわなければならない。そして、右の違法は、原判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
よって、その余の論旨についての判断を省略し、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同法四一三条に則り、本件を原裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)